CASE

事例紹介

「最低賃金への算入判定」で制度選択を見直し(2社)

顧客像
長野県の中小企業(約120名)、愛知県の中小企業
担当
ワトナル社会保険労務士事務所
テーマ
助成金・奨励金

課題

賃金台帳の時給だけでは、業務改善助成金の対象になるかを判断できない。

支援の内容

役員・業務委託・派遣を除いて時間単価を一人ずつ算定。1社は事業場内最低賃金が県の最低賃金を上回り対象外と判定。もう1社は住宅手当が最低賃金に算入されることを確認し、提出済みの申請を取り下げた。

成果・ポイント

2社とも働き方改革推進支援助成金(計画年休の新規導入+賃上げ加算)へ切り替え、うち1社は7名・7%の賃上げで設計。要件を満たさない申請による不支給を未然に防いだ。

背景にある制度・ルール

業務改善助成金の対象になるかどうかは、「事業場内最低賃金」で判断します。厚生労働省のQ&Aによれば、その算定は地域別最低賃金と同じ考え方で、最低賃金法第4条と同法施行規則に基づいて行います。最低賃金の計算に算入しない賃金は、次のとおりです。

  • 臨時に支払われる賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(最低賃金法施行規則第1条第1項)
  • 所定労働時間を超える労働、所定労働日以外の日の労働、深夜労働の割増部分などに対して支払われる賃金(同条第2項)
  • 当該最低賃金で算入しないと定められた賃金(精皆勤手当・通勤手当・家族手当)

住宅手当はこれらに含まれていないため、毎月決まって支払われていれば、最低賃金の計算に算入されます。一方、労働基準法施行規則第21条は、割増賃金の基礎から除外できる賃金の一つとして住宅手当を挙げています。「割増賃金の計算で除くもの」と「最低賃金の計算で除くもの」は同じではないため、ここを取り違えると判定を誤ります。

令和8年度の業務改善助成金は、事業場内最低賃金が令和8年度の地域別最低賃金未満であることが要件です。Q&Aでも、申請時点で事業場で一番時間給が低い労働者(雇用保険被保険者)が改定後の地域別最低賃金額以上であれば申請できないとされています。提出済みの申請は、取下書(様式任意)により取り下げることができます。

業務改善助成金が使えない場合の選択肢の一つが、働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)です。「年次有給休暇の計画的付与制度の新規導入」(上限額25万円)などの成果目標を選び、設備・機器の導入などの改善事業を行うもので、助成率は原則3/4です。あわせて労働者の時間当たり賃金を3%以上・5%以上・7%以上引き上げると、引上げ人数に応じて上限額が加算されます。常時使用する労働者が30人以下の事業者では、5%・7%の区分で加算額が上乗せされます。賃上げ加算の時間当たり賃金も、最低賃金法施行規則第1条の算入しない賃金を除いて計算することとされています。

支援のポイント

賃金台帳の時給だけでは対象になるかどうかを判断できないため、本件では役員・業務委託・派遣を除いたうえで、時間単価を一人ずつ算定しました。役員や業務委託の人は自社が雇用する労働者ではなく、派遣労働者は派遣元に雇用されている労働者です。これらを含めたまま最も低い時給を探すと、事業場内最低賃金を誤って判定してしまいます。

その結果、1社は事業場内最低賃金が県の最低賃金を上回っており、業務改善助成金の対象外と判定しました。もう1社は、住宅手当が最低賃金に算入されることを確認し、提出済みの申請を取り下げました。手当の扱い一つで要件の判定が変わるため、提出後であっても、要件を満たさないことが分かった時点で取り下げる判断をしています。要件を満たさないまま進めれば不支給となるおそれがあり、その間の準備や設備の手配も無駄になりかねないからです。

そのうえで、2社とも働き方改革推進支援助成金(計画年休の新規導入+賃上げ加算)へ切り替え、うち1社は7名・7%の賃上げで設計しました。この制度には「事業場内最低賃金が地域別最低賃金未満」という入口の条件がないため、賃金水準が比較的高い事業者でも、休暇制度の整備と賃上げを組み合わせて活用を検討できます。こうして、要件を満たさない申請による不支給を未然に防ぎました。

同じような課題をお持ちの方へ

  • 手当ごとに「最低賃金に算入するか」を一覧にしましょう。名称だけで判断せず、毎月決まって支払われるものかどうかも確認します。
  • 割増賃金の基礎から除く手当と、最低賃金の計算から除く手当は別のルールです。混同しないよう注意しましょう。
  • 月給者は、算入すべき手当を含めた月給を、月の所定労働時間(月によって異なる場合は1年間の1か月平均)で割って時間額にします。
  • 役員、業務委託、派遣労働者は、自社の事業場内最低賃金の判定には含めません。
  • 業務改善助成金の対象外でも、働き方改革推進支援助成金など他の制度が使える場合があります。計画年休を新たに導入する場合は、就業規則と労使協定の整備が必要です。

参考資料

※守秘義務に配慮し、ご承諾をいただいたうえで、業種・地域・規模などを匿名化して掲載しています。