最低賃金を下回る状態を是正したうえで申請
- 顧客像
- 大阪府の中小事業者
- 担当
- ワトナル社会保険労務士事務所
- テーマ
- 助成金・奨励金
課題
申請準備の途中で、一部の労働者が地域別最低賃金を下回っていることが判明した。
支援の内容
下回り始めた時点から、賃金請求権の時効(3年)分の差額を算定し、補填の段取りを設計。補填後の事業場内最低賃金の扱いで助成率・上限額が変わるため、労働局へ確認すべき論点を整理した。
成果・ポイント
法令違反の解消と助成金の申請を両立させる道筋をつけた。
背景にある制度・ルール
最低賃金法第4条第1項は、使用者に対し、最低賃金の適用を受ける労働者に最低賃金額以上の賃金を支払うよう義務付けています。最低賃金額に達しない賃金を定めた労働契約は、その部分が無効となり、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(同条第2項)。つまり、最低賃金を下回っていた期間の差額は、本来支払われるべきだった賃金として扱われます。
賃金の請求権は、労働基準法第115条で「行使することができる時から五年間」とされていますが、附則第143条第3項により、当分の間、退職手当を除く賃金の請求権は3年間とされています。厚生労働省の解説では、この扱いは2020年4月1日以降に支払期日が到来する賃金が対象です。差額を精算する際には、いつから下回っていたのか、どの支払期日の分までさかのぼるのかを一人ずつ確認する必要があります。
業務改善助成金との関係でも、この問題は避けて通れません。厚生労働省のQ&Aでは、申請時にその時点の地域別最低賃金を下回っている事業場は助成対象とならないとされています。また、申請書の提出日の前日から起算して1年前の日から一定の時期までの間に労働基準監督署の是正勧告を受けている場合は、申請できないとされています。
さらに、令和8年度の助成率は、引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4に分かれます。事業場内最低賃金が1,050円未満の事業者は「特例事業者」として、10人以上の上限額区分の対象にもなります。どの金額を「引上げ前の事業場内最低賃金」とみるかが、助成率と上限額の両方に関わります。
支援のポイント
本件は、申請準備の途中で、一部の労働者が地域別最低賃金を下回っていることが判明したケースです。まず、下回り始めた時点から、賃金請求権の時効(3年)分の差額を算定し、補填の段取りを設計しました。差額の精算は法令上の義務を果たすためのものであり、助成金の申請より先に解消すべき問題です。どの支払期日の分を、どの労働者に、いくら支払うのかを明確にしておくことで、精算漏れや本人への説明の食い違いを防ぎます。
次に、補填後の事業場内最低賃金の扱いについて整理しました。助成率や上限額の区分は、引上げ前の事業場内最低賃金の金額で決まります。最低賃金を下回る状態を是正した後の金額をどのように扱うかによって、助成率が4/5になるか3/4になるか、特例事業者に当たるかどうかが変わる可能性があります。ここは事業者の判断だけで決めず、管轄の労働局へ確認すべき論点として整理しました。
是正を先に行い、助成金の区分に関わる点は事前に確認する、という順番で進めることで、法令違反の解消と助成金の申請を両立させる道筋をつけました。
同じような課題をお持ちの方へ
- 最低賃金との比較は、算入すべき手当を含めた時間額で行います。精皆勤手当・通勤手当・家族手当や、時間外・休日・深夜の割増部分、賞与などは含めません。月給者や日給者は、所定労働時間で割って時間額に換算しましょう。
- 地域別最低賃金は都道府県ごとに定められ、例年10月以降に改定されます。発効日は都道府県によって異なるため、事業場の所在地の発効日を必ず確認しましょう。
- 最低賃金は毎年改定されます。発効日にあわせて全員の時間額を一覧で点検する仕組みをつくりましょう。パートやアルバイトも含め、原則としてすべての労働者が対象です。
- 下回っていた場合は、いつから下回っていたのかを賃金台帳で確認し、差額を精算しましょう。賃金請求権の時効は当分の間3年です。
- 精算の経緯(算定方法、支払日、本人への説明内容)は書面で記録しておきましょう。
- 助成金の検討は、是正を済ませてからが前提です。是正後の金額がどの区分に当たるかは、事前に労働局へ確認しましょう。
参考資料
- 最低賃金法(第4条)(e-Gov法令検索・2026年10月28日確認)
- 最低賃金法施行規則(第1条・第2条)(e-Gov法令検索・2026年10月28日確認)
- 労働基準法(第115条、附則第143条)(e-Gov法令検索・2026年10月28日確認)
- 賃金請求権の消滅時効は、どのように変更されたのでしょうか?(厚生労働省「確かめよう労働条件」・2026年10月28日確認)
- 業務改善助成金Q&A(令和8年9月~)(厚生労働省・2026年10月28日確認)
- 令和8年度業務改善助成金のご案内(リーフレット)(厚生労働省・2026年10月28日確認)
※守秘義務に配慮し、ご承諾をいただいたうえで、業種・地域・規模などを匿名化して掲載しています。
