CASE

事例紹介

退職金制度を「年収比例方式」へ再設計

顧客像
スポーツ関連の事業会社
担当
株式会社ワトナル
テーマ
制度設計

課題

現行の退職金制度を、人事評価に応じて差がつく仕組みへ改めたい。社員への不利益は小さく抑える必要があった。

支援の内容

「年収×付与率×成績係数」の方式を設計。業績評価は係数に、能力評価は昇給に反映する。移行日前日(3月31日)時点の既得額を保証し、既存社員には経過措置の付与率を設けた。

成果・ポイント

新卒から60歳定年で1,000万円、30歳入社で800万円のモデル水準を設定。現行比は優秀者で上回り、標準・低評価は段階的に下がる設計(目標:優秀110%、標準85〜90%、低評価70%)。

背景にある制度・ルール

退職金は就業規則で定める労働条件

退職金(退職手当)の制度を設ける場合は、適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払の方法、支払の時期を就業規則に定めなければなりません(労働基準法第89条第3号の2)。いったん規程に定めた退職金は、従業員にとって重要な労働条件になります。

不利益変更のルール

就業規則の変更によって、労働条件を従業員の不利益に変えることは、原則として従業員との合意なしにはできません(労働契約法第9条)。合意がなくても変更が認められるのは、変更後の規則を周知し、かつ、従業員の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして、変更が合理的といえる場合です(同法第10条)。

厚生労働省が紹介する裁判例では、賃金や退職金など重要な労働条件に実質的な不利益を及ぼす変更には、その不利益を受け入れさせることが許されるだけの「高度の必要性」に基づいた合理的な内容が求められるとされています。また、一部の層だけに大きな不利益が生じる制度改正で、経過措置などの救済がないまま不利益を負わせることは相当性を欠くと判断された例もあります。退職金の引下げへの同意についても、署名があることだけで判断せず、不利益の内容や程度、事前の情報提供や説明の内容などを踏まえて慎重に判断すべきとされています。

変更の手続き

就業規則を変更する際は、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴き(労働基準法第90条)、意見を記した書面を添えて労働基準監督署に届け出たうえで(同法第89条)、従業員に周知する必要があります(同法第106条)。

支援のポイント

評価ごとに反映先を分ける

本事例では、退職金を「年収×付与率×成績係数」で算定する方式を設計しました。年収に比例させることで、在職中の処遇と退職金の水準が連動し、制度の考え方を社員に説明しやすくなります。

あわせて、業績評価は成績係数に、能力評価は昇給に反映すると役割を分けました。能力の伸びは昇給を通じて年収に表れ、その期の業績は係数として表れます。評価の種類ごとに反映先を決めておくことで、同じ評価が重なって効きすぎることを避け、差のつき方を説明しやすくしています。

不利益を小さくする2つの仕組み

制度を切り替える際に最も配慮が必要なのは、すでに働いている社員への影響です。そこで次の2つを組み込みました。

  • 既得額の保証:移行日前日(3月31日)時点の既得額を保証し、これまでの勤続に対応する部分が新制度によって減らないようにしました。
  • 経過措置の付与率:既存社員には経過措置の付与率を設け、切り替えの影響が急激にならないよう配慮しました。

いずれも、裁判例で重視されてきた「不利益の程度」や「経過措置の有無」という観点に対応するものです。

モデル水準と目標を数字で置く

新卒から60歳定年で1,000万円、30歳入社で800万円のモデル水準を設定し、現行制度との比較の目標を「優秀110%、標準85〜90%、低評価70%」としました。優秀者は現行を上回り、標準・低評価は段階的に下がる設計です。差をつけるという目的と、不利益を小さく抑えるという要請の両方を、数字で確かめられるようにしたことがポイントです。

同じような課題をお持ちの方へ

退職金制度の見直しは、効果が長い時間をかけて表れるため、設計段階での確認が欠かせません。次の点を参考にしてください。

  • 現行制度を把握する:規程の計算式、勤続年数ごとの支給額、社員ごとの現時点の見込額を一覧にします。
  • 新旧比較を試算する:評価のパターンや入社年齢ごとに、新旧制度の支給額を比べます。
  • 既得額の扱いを決める:移行日時点の額をどう保証するかを決めます。
  • 経過措置を検討する:影響の大きい層を特定し、緩和策を考えます。
  • 評価制度と整合させる:評価の基準や運用が整わないまま差をつけると、不満の原因になります。
  • 丁寧に説明する:変更の必要性、内容、一人ひとりへの影響を、試算とあわせて説明します。同意を得る場合も、十分な情報提供が前提です。
  • 手続きを漏らさない:意見聴取、届出、周知を確実に行います。

株式会社ワトナルでは、制度の考え方の整理や水準の試算など、設計段階のご相談をお受けしています。

参考資料

※守秘義務に配慮し、ご承諾をいただいたうえで、業種・地域・規模などを匿名化して掲載しています。